原丈人氏の『21世紀の国富論』を読む(2)

長年シリコンバレーベンチャー・キャピタリストとして活躍してきた原さんがポスト・コンピュータ産業のヴィジョンとこれからの日本産業に対する励ましと期待を語ったものであり、非常に示唆に富む本である。

原さんによると次にくるコミュニケーションのアーキテクチャーはPUC(パーベイシブ・ユビキタス・コミュニケーション:pervasive ubiquitous communication)であるとして、この技術が次世代の基幹産業となると私見を展開している。PUCとは

つまり使っていることを感じさせず(パーベイシブ)、どこにでも偏在し(ユビキタス)利用できるコミュニケーション機能です。(p.102.)

PUC技術は人間が望むコミュニケーション機能を、パーベイシブ(利用していると気づかないほどわかりやすく)で、ユビキタス(必要とするとき、どこからでもどこにでも)に実現するのです。それは、「人間が機械に合わせる時代」から「機械が人間に合わせる時代」への質的変化をもたらすもので、最終的には人間が住みやすい社会を実現するためにあるのです。(p.218.)

PUC技術は、ハードとソフトが融合したものであり、これは日本や韓国および東アジアの諸国が得意とするものであり、次世代の基幹産業は日本を中心として展開する可能性が大きいというのである。

別の言い方をすれば、PUCは「知的工業製品」と「物的工業製品」との両方の側面を持っており、技術の突破口(テクノロジ・ブレークスルー)を見出すようなものである。

「物的工業製品」で大切なのは、小さなイノベーション(技術改良)の積み重ねです。これを実現する上でも、多くの大企業がもつ整然としたピラミッド型の組織が威力を発揮してきました。しかし、「知的工業製品」で求められるのは、より根本的な発想の転換を促すようなインベンション(発明)、そしてディスカバリー(発見)です。ソフトウェアや通信技術、バイオテクノロジーのような産業で不可欠なクリエイティビティは、むしろ画家や音楽家といった独創性に富んだ芸術家の創造性に似ているのです。(p.153-154.)

PUC時代においてはマイクロソフトのような独占状態は起こりえません。マーケットはより細分化が進み、それぞれ小さなマーケットでスタンダードを握る企業がたくさん存在するという状況になるはずです。ひとつのソフトウェアでせいぜい10億から150億円といった、小さいけれども面白いマーケットがこれからの中小企業とって活躍の場になっていくでしょう。このようにハードウェアの得意な大企業と中小企業が両方ともに存在し、棲み分けが可能であるという点でも、日本は有利です。(p.217.)

そして最後に「世界から必要とされる21世紀の日本」をヴィジョンとして描き、その理想を実現するための様々な具体的な提言を行っていくのである。


原氏の見解は一部の人には何年も前から知られていたようだが、1冊の本としてまとめられたのは今回が初めてとのことである。対談としては、岩井克人小林陽太郎原丈人糸井重里)『会社はだれのものか』平凡社 2005.6.24 に「次世代産業は日本がリードする――原丈人氏(デフタ・グループ会長)との対談」(初出:『中央公論』2003年10月号)が載せられているのを思い出した。

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